陰部リンパ浮腫や、リンパ小疱、リンパ漏(皮膚や外陰部からのリンパ液の漏出)はデリケートな部分の疾患と言うこともあり、患者さんは病院などでなかなか言い出せず、放置されることが多くなっています。また、医療関係者の中でもリンパ小疱のことをよく知っている人は少なく、患者さんが相談してもなかなか解決できないこともありました。
私たちのチームでは、科学的データを基に、女性医師が根治的なアプローチで陰部リンパ浮腫、リンパ小疱の治療にあたっていますので、まずはお気軽にご相談ください。
リンパ小疱、リンパ漏を放置すると、蜂窩織炎を繰り返して、リンパ浮腫の悪化をきたしやすくなりますので、早めの受診をおすすめします。
男性患者さんの場合は、男性医師が診療にあたります。
リンパ浮腫の部位に発生する、皮膚病変のひとつです(写真)。比較的まれな病変で、陰部に生じることが多いです。このリンパ小疱があると、ヒリヒリとした痛みがでます。また、リンパ小疱が破れると透明なリンパ液が持続的に漏れてきて、数日間続くこともあります。
リンパ小疱がある方は蜂窩織炎を起こしやすいという特徴もあります。医療関係者の間でもあまり知られていない病変のため、患者さんによっては皮膚の感染症(ウイルス性のイボ、尖圭コンジローマなど)と診断されていることもあります。
リンパ小疱を放置すると、蜂窩織炎を繰り返して、リンパ浮腫の悪化をきたしやすくなります。
がんの治療の際にリンパ節を切除する手術を行うことがあります。がん細胞が転移しやすいリンパ節を切除することで、がん細胞が身体に広がっていくのを防ぐために行う手術です。
しかし、リンパ節は同時にリンパ管の通り道でもありますので、リンパ節が切除されることで、それより手前のリンパ管は、出口を踏みつけられたホースのように膨れあがります。リンパ管の中にリンパ液がパンパンに溜まっている状態です。このリンパ液が逃げ場を探して、リンパ管が皮膚の弱いところに向かって膨れていったのが、リンパ小疱と考えられます。
このリンパ小疱と足のリンパ管はつながっていることがわかっています。足を流れるリンパ液が鼠径部から陰部に向かってしまうことがあるため、リンパ小疱は陰部にできやすいのです(左上の図)。
リンパ小疱は陰部にできやすいため、患者さんは病院などでなかなか言い出せず、放置されることが多くなっています。また、医療関係者の中でもリンパ小疱のことをよく知っている人は少なく、患者さんが相談してもなかなか解決できないこともありました。私たちのチームでは、女性医師がリンパ小疱の治療にあたっていますので、まずはお気軽にご相談ください。
治療は以下の通りです。
+ 再発予防のためLVAも行います。
リンパ小疱は、リンパ管の中にリンパ液がパンパンに溜まってしまったことが原因でできる病変ですので、切除しただけではすぐに再発してしまいます。この膨れたリンパ管は足のリンパ管とつながっていますので、足でリンパ管静脈吻合術を行って溜まったリンパ液の逃げ道を作ることで、再発を予防します。また手術後も、可能であればリンパ小疱があった部分の圧迫療法をしていただくと、再発しにくいです。
これまで、リンパ小疱の原因は解明されていませんでした。私たちは、リンパ小疱の患者さんを治療していく中で、リンパ小疱の病態・治療法を世界で初めて解明し、国際雑誌で発表してきました。
論文要旨・和訳
(背景)リンパ浮腫にはリンパ小疱が合併することがあるが、その病態はいまだ解明されていない。われわれはリンパ小疱の病態を理解するため、病理学的な研究を行った。
(方法)2008年3月から2015年12月にリンパ小疱の治療を受けた患者の調査を行った。10人の患者にのべ16回の手術を行い、リンパ小疱を切除した。患者の平均年齢は57.2歳(43~69歳)で、すべて二次性リンパ浮腫をもつ女性であった。手術で切除したリンパ小疱をホルマリン固定し、HE染色を行った。8検体については追加でpodoplanin,染色、LYVE-1染色、CD4染色、CD8染色、CD20染色、CD31染色を行った。
(結果)10人すべてで蜂窩織炎の既往があり、7人では10回以上の蜂窩織炎の既往があった。16検体すべてで真皮乳頭部におけるリンパ管の拡張を認めた。また、臨床的な炎症所見がないにもかかわらず、すべての検体でリンパ球を主体とした炎症細胞の浸潤を認めた。浸潤しているリンパ球は主にCD4+T細胞で、CD8+T細胞やCD20+B細胞も認められた。この3種類のリンパ球の細胞数は、真皮深層よりも浅層で有意に多かった。これは、真皮浅層(真皮乳頭部)で拡張したリンパ管から漏出したものと考えられた。CD8染色を行った8検体中7検体でCD8+T細胞の表皮浸潤を認めた。さらに真皮層ではコラーゲン線維の増生や表皮の肥厚が認められた。また、足にインドシアニングリーン(リンパ管造影剤)を注射すると、陰部のリンパ小疱が造影されたことから、足のリンパ管と陰部リンパ小疱の連続性が示された。
(結論)リンパ小疱の真皮では、リンパ管拡張やコラーゲン線維の増生が認められた。真皮におけるリンパ球の常在化が、リンパ小疱患者に頻発する蜂窩織炎と関連する可能性がある。
(参考文献)
Hara H, Mihara M, et al. Pathological investigation of acquired lymphangiectasia accompanied by lower limb lymphedema: lymphocyte infiltration in the dermis and epidermis. Lymphat Res Biol. In press. 詳細はこちら(英語)。
Hara H, Mihara M, et al. Therapeutic strategy for lower limb lymphedema and lymphatic fistula after resection of a malignant tumor in the hip joint region: a case report. Microsurgery. 2014 Mar;34(3):224-8. 詳細はこちら(英語)。
Mihara M, Hara H, et aI. Low-invasive lymphatic surgery and lymphatic imaging for completely healed intractable pudendal lymphorrhea after gynecologic cancer treatment. J Minim Invasive Gynecol. 2012 Sep-Oct;19(5):658-62. 詳細はこちら(英語)。