低侵襲医療とは、検査・治療においてできる限り患者さんの身体への影響を減らした治療法です。
ここではその中から抜粋した治療についてご紹介いたします。
最初にリンパシンチグラフィやICGリンパ管造影でリンパ浮腫の確定診断、残存するリンパ管機能診断を実施した後、リンパ機能が残存している症例に対しては局所麻酔下・リンパ管静脈吻合術(LVA)を実施します。術中に良好なバイパス路形成を確認できた症例は、最終的には年2~3回の外来通院や、浮腫所見を診ながら中圧や弱圧ストッキングへの変更、場合によってはストッキングフリー(※強圧弾性ストッキング常時着用からの離脱)を提案します。但し、治療後の経過が良い場合でも、リンパ機能が完全に回復したわけではないため、定期受診は必要となります。
遠方の患者さんに関しては、退院後2ヶ月目、6ヶ月目の診察にて症状改善が認められたら、その後は1年以後の外来受診を師事する場合もあります。
治療のメカニズムを簡単に説明します。リンパ節郭清後のリンパ管内圧は、100mmHg以上に上昇すると言われています。対して正常な皮下静脈内圧は10mmhg以下です。リンパ管と静脈を直接吻合すると、リンパ管内圧と静脈圧の間で圧較差が生じ、異常に上昇したリンパ管内圧は、静脈圧近くまで降圧できると考えています。これまで行われてきた保存療法が対症療法であったのに対し、LVAはリンパ管内圧の上昇というリンパ浮腫の病態に直接働きかける、本質的な治療といえます。
また、しっかりとしたバイパス路が作成できた症例に関しては、術後にリンパドレナージや、弾性ストッキング着用を行う事で、これまで以上に浮腫軽減効果が出てきます。局所麻酔による低侵襲手術に進歩してきたことで、90才以上の患者さんも問題なく手術を受けています。 手術時間は2~3時間、入院期間は4~7日間程度になります。
【ナレーション和訳】
術前にインドシアニングリーン(ICG)リンパ管蛍光造影法および、皮下静脈同定装置(StatVeinTM)を用いて、リンパ管と静脈の同定を行います。その後、皮膚切開部を決定後、局所麻酔下にて手術を行います。最初に出てくる左側の白い物体は術者の人差し指です。比べてもらうとわかりますが皮膚切開は1-2cmで、皮下脂肪の中から集合リンパ管を見つけ出します。この白色透明の管がリンパ管です。続いて皮下静脈を探し出します。
リンパ管内はリンパ液で充満しており、白色を呈しています。静脈の中は血液が通っているため赤色をしております。手術用顕微鏡を用いて0.5mm前後のリンパ管と静脈を世界最小の12-0ナイロン糸を用いて吻合していきます。 糸の太さは髪の毛の10分の1程度です。4針から5針程、全周性に縫合していくことで吻合が終了します。 吻合後は、リンパ流がきちんと静脈に流れ込んでいることを確認します。
赤色の静脈は、リンパ液が流れ込むことによって白色に色が変わっていきます。最後は閉創して手術終了します。
LVA手術に関して、リンパシンチグラフィ、ICGリンパ管蛍光造影検査、超音波リンパ管検査技術の発展により、より確実で、より低侵襲の治療法に進歩してきました。
私共はLVAの吻合本数が9カ所以上を越えると、治療効果が向上しないことを科学的に証明してきました。9カ所以上のLVA吻合を検討する際には、上記を再検査し、治療方針を再検討する必要性があります。
(参考文献)
Mihara, Hara et al. Multisite Lymphaticovenular Bypass Using Supermicrosurgery Technique for Lymphedema Management in Lower Lymphedema Cases.Plast Reconstr Surg. 2016 Jul;138(1):262-72. 詳細はこちら。
病態によって、スケジュールは変更します。詳細は担当医にご確認下さい。
現在は、手術翌日より弾性ストッキングを装着しており、入院時にご持参下さい。